かつての日本企業では、OJT(On-the-Job-Training:職場個別指導)でしっかりと教育し、プロとしての社員を育て、その育てられた人が、また部下に個別指導をするという循環が、個人を育て企業を成長させたのである。
私が、ホテルを退職したのは、2001年、婚姻組数が約80万組といわれたミレニアム婚で団塊世代ジュニアの結婚でピークを迎えた年であった。
ホテルを退職した理由の一つに、現場教育の問題があった。当時私は、宴会部長という立場でホテル勤務に没頭していたが、あるときGMに呼ばれ、今後の教育は、スペシャリストではなくゼネラリストを育ててくれと言われた。私は、瞬時に「出来ません」と答えた。なぜなら、ホテルは、高級なところで料金も高い。それは、非日常を体験できる場所で、そこにプロの技があるからこそお客様は、非日常を感じて感動してくれる。その感動こそがホテルの魅力なのだ。だから、スペシャリストがいなくなったら、ホテルは一気に魅力を失い、客離れが起きてしまうのだ。
私は、あくまで宮使いの身だ。上司のいうことが聞けなければ、辞めるしか選択肢はなかったのだ。
バブル崩壊から10年目、最も厳しい時期だったと思うが、私は、自分のホテルの仕事に対して妥協することはできなかった。それは、見方を変えるとサラリーマン失格である。
このころから、ゼロ金利、デフレ経済が定着し、経済は低迷していった。そんな中、㈱プレス・ワークという企業が1997年にゲストハウスの1号店がオープンし、その翌年に、表参道に2号店がオープンした。現在のアニヴェルセルの前身である。その収益率には目を見張るものがあり、結果として当時の高利回りの投資案件として拡大した結果、上場企業も増えた。しかし、ゲストハウスの弱点でもあることは、結婚式に特化しており、専門式場やホテルの宴会場のように多目的な使用をしないので、2001年以降の婚姻数の減少とそれに輪をかけ、ナシ婚が急増して、婚姻数が一気に減少したことが大きな打撃となった。
ゲストハウスは、結果として利益追求に特化したビジネスとなり、ホテルなどが生涯顧客を囲い込みファンづくりを行う経営方針とは異なり、利益を出すことだけが究極の目的であることから、「For the Customer」という考え方は、全くと言っていいほどない。企業によっては名目上、「顧客満足の追求」とか「ブランドやファンづくりのための組織」などと運営を行ってはいるが、実際にやっていることを検証すれば、事実と反することは明らかだ。
こうしたことが、ウエディングプランナーを失望させ、窮地に追い込むことで、企業自身の首を絞める結果となった。ウエディングプランナーを希望する人材は、比較的夢やホスピタリティが強い人が多いが、ゲストハウスや同じ手法で行っているプロデュース会社に就職するとサービス業のコンセプトとはかけ離れた現実に今やフリーランスウエディングプランナーを志望する人材が非常に増えている。
このような会場を辞めたウエディングプランナーは、同じ会社に戻ることは、絶対にない。それほど衝撃的な打撃を受けているのである。
少なくとも、ホスピタリティの実践という実情から、現場のプロデュース力やプランナーの知識や経験に基づくプランナーの実態からして、厳密な表現をすれば、プランナーは殆ど存在せず、そのほとんどがコーディネーターである。ならば、この人手の少ない現実からすると、コーディネーターに特化するのであれば、人よりペッパー君のようなロボットのほうが、ずっとお客様のストレスもないし、コンプレインもないと思う。
しかし、婚礼の位置づけとしては、挙式・披露宴だけではないし、その挙式披露宴を思いで深いものにするためには、「プロの人材」の存在は、どこかの場面で必要になるだろう。
このビジネスを安定的に継続するためには、お客様の集客も重要であるが、受けた挙式・披露宴を満足できるものに作り上げる能力を持った人材の存在は必至である。すでに、企業では、プロとしての人材を教育して育てることは不可能な状態まで来ているので、ならば、出来上がったプロを登用するしかない。そのために、生き残り戦略としてのウエディングビジネスの収入構造の見直しをする必要がある。かつてのゲストハウスビジネスは、顧客の志向が「アクセスよりロケーションの優先」という考え方だったので、交通の便の悪い地代の安いところでも問題なかったので、収益確保は難しくなかった。しかし、この優先順位が今は逆になった上に、婚姻数の激減、デフレ経済の長期化の影響による低所得者層の拡大など、向かい風の条件ばかりとなってしまった現在は、集客も大変だが顧客満足も大変難しい状況となった。
フリーランスが全体の20%も占める日本では、アメリカでフリーランスシェアが30%であることを考えると、ウエディングプランナーもこの先さらにフリーランス化が進むと思われる。会場は、このフリーランスとのコラボレーションを本格的に考える必要があり、そのためには、収入構造を含め、従来のウエディングビジネスの方程式を根本から見直す必要がある。現状のような婚姻数に対する会場数の状況では、従来のような収入構造のビジネスは不可能である。
少なくとも、現状のウエディング可能な会場の半分以上が、廃業又は業態転換しない限り、ウエディングビジネスは、隆盛時代に復活することは不可能なのだ。
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