私の子供の頃にスーパーカーブームがあり、この年齢になってもその類(たぐい)の車を見ると、子供の頃に虫取りに行って、めったに出くわすことの無いオニヤンマやギンヤンマなどの大きなトンボを見つけた時のような胸の高鳴りを覚える。
現代の若者は、車に興味がなくなったようだが、皆さんはフェラーリ・エンツォという車をご存じだろうか。その販売価格は、1台7,500万円で、わずか399台しか生産されず、中古車市場ではなんと1億円を軽く超える価格で取引されている。
フェラーリは、エンツォを作る前の市場調査で400台という需要予想が出たため、需要数より1台少なく作るというフェラーリ創業者の言い伝えに従って、この台数の生産を行うと発表した。
結果、3,000人の購入希望者がでたそうだ。恐らくフェラーリは、3,000台くらい売れることは、予想がついていたのだろうが、敢えて399台しか作らないのがフェラーリのブランド力だと思う。普通の企業なら、5,000万円まで価格を下げて1,000台、2,000台完売しようと考えるが、それをしないのは未来のブランドの芽を潰してしまうからだ。
ところで、よく聞く言葉に「ニーズ(Needs)」というワードがあるが、ニーズ以上に社会を動かしているのが、「ウォンツ(Wants)」だ。では、「ウォンツ」とはどんなことだろうか。
私は、病気で平衡感覚を失ったため、もう車を運転出来ないが、実は運転が大好きで、勿論車も大好きだ。今は、BMWのMiniに妙に魅力を感じる。これとトヨタのアクアを比べてみると、価格は、Miniの方が100万円以上高いが、性能においてはアクアの方がはるかに高い。
しかし、この2台のどちらを買うかと言われたら、私は、Miniを買いたい欲求の方が圧倒的に強い。性能が悪く、しかも100万円も高いのに、そちらのほうが欲しいという欲求、この購買行動を強くけん引する力が「ウォンツ」である。前述のフェラーリも、まさにニーズを超えた「ウォンツ」の話である。
そういう視点で見ると、同じような事例は世の中に多い。時計で考えてみると、セイコーのクオーツ時計は、電波時計で太陽電池がついていて100年間で2秒しか狂わないものが、今では3万円で買える。ところがロレックスのデイトナは、3日間机の上に放置すると止まってしまうのに、200万円もするのだ。
なぜロレックスは200万円でも売れるのか。勿論、ブランド力そのものもあるが、デイトナの魅力を知っている人は、精度は悪くても、電子部品が入っておらず、電池交換も不要で100年経っても動くという、機械式時計の部分に大きな魅力を感じているという。
つまり、時間を知ると言う必要性は同じでも、そのために何が欲しいかとなると、どこに価値を感じるかは人によって根本的に違うわけで、欲しい物も変ってくるわけだ。これが「ニーズ」と「ウォンツ」の違い、つまり、「ニーズ」は、あくまで必要なもので、「ウォンツ」は、欲求もしくは願望と言ってもいいと思う。
ありとあらゆる物があふれる現代では、市場の購買力は、この「ウォンツ」に支配されており、「ウォンツ」を感じられる商品でなければ売れない。
それはブライダルも同じである。しかも、今のブライダルは、生き物のように、短いスパンでその姿を変え続けており、ぼやぼやしていると消費者の後追いどころか、業界の方が新郎新婦に取り残されることになりかねない。
前回もケーキトッパーが売れるという話をしたが、海外ウエディンググッズのインターネット販売というひとつの手法を通して日本全国の新郎新婦と直接対話していると、彼らの傾向が分かってくる。いち早く顧客の「ウォンツ」を探し当て、それが次にどこに向かうのか予想し、発信することが当協会の使命かも知れないと考えている。
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