10年以上続く企業は、日本の中でも全体の6%しか存在しないことを以前記したが、創業200年を超える企業は、韓国0、中国9、インド3に対して、日本は実に3000以上で、次点はドイツの約800というから、日本はダントツの1位の老舗大国である。
島国であり、海外との戦争は殆どないに等しく、平穏無事な時代が長く続いてきた。その土台の上に、「継続」をことのほか重んじる日本人の価値観や、「自然との調和」、「忍耐・我慢」、「文化としてのわびさび」など、日本独自の気風が重なり合い、老舗文化が開花したといえるかも知れない。
老舗と言えば、創業元禄2年(1689年)、京都で320年以上続く、誰もが知っているであろう聖護院八ッ橋総本店がある。この老舗の専務取締役は、一人娘の後継者で若干32歳の女性であり、伝統の味や職人を大切にしながら、老舗に新風を吹き込んでいるという。
彼女は、京都大学で経済学を専攻した才女で、在学中に留学した米国でMBAの基礎を学んだが、入社直後は、大学や米国で学んだ合理的な経営が京都の文化に合わず戸惑ったらしい。
MBAは合理主義で、徹底的に無駄を省くシミュレーションをする。米国で学んだやり方は、必ずしも京都の実情には合わなかったのだが、それも経営理論を知っているからこそ分かった事であり、MBAは取って良かったという。
MBAを学んだ経営者には「おつきあいは無駄」と見なす人も少なくなくない中で、彼女は、積極的に地場の会合や懇親旅行に参加し多くの時間を割いている。
取引先で新規の提案をするとき、地元の話題から会話を始めてスムースに話が進むなど、「おつきあい」のメリットに気づく。人と人との関係を大切にすることで、結果的に商談が進むスピードが、非常に速くなったという。
和菓子業界だけでなく、花道や茶道の世界など、京都ならではのおつきあいからも新商品のヒントを得られることが多いことは、米国でのMBAの基礎授業では絶対に教えてくれなかった利点だそうだ。
一方、「老舗の暖簾よりもずっしり重いものは従業員だ」と彼女は言う。
聖護院八ッ橋総本店には、「人を大切に」と「地元を大切に」という2つの方針があるというが、私は、このことこそ、老舗の老舗たるゆえんであると思う。
この「人を大切に」とは、お客様はもちろん、働き手の人生について配慮することである。経営の判断を一つ間違えれば、事業を縮小せざるを得なくなり、彼らが職を失う。彼らの人生のほうが、お店の歴史よりもずっと重みがあるというのだ。
だからこそ、大切な従業員を安易に解雇しないように、事業展開は慎重になる。京都らしい“商売の手堅さ”は、従業員を大切にする経営の表れのようだが、このことは、京都に限った事ではないと思う。
私事で恐縮だが、私の実家は、北海道の室蘭で50年続く鉄鋼所を経営しており、現在は、70歳を迎える私の兄が2代目社長、兄の息子が次期社長の予定で、3代目に受け継がれようとしている。父は、存命中、「人を大切に」と口に出したことはなかったが、私は子供の頃から、寡黙な父とそれを支える母の、人に対する対応を見ていて、「人は一番大切なもの」と言い聞かされてきたような気がする。
また、私の協会がサポートしているフリーランスのライセンスドプランナーも、当初より、量販店が進出しても潰れない「町の電気店」の手法を目指している。
日本が、世界に類を見ないパラダイムシフトにより少子老齢国となり、労働人口の減少が必然的に人手不足を招く状況で、今後、最重要課題となるのは、「人」の問題であるのは間違いない。
私は、ビジネスの本質は「つきあい、地元、人」に集約され、これこそ本質として目指すべきものだと考えている。
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