連載記事2016年10-1
サービス業(接客業)のプロ意識と接客技術
(ヒューマンスキルの重要性)
プロに代わるゼネラリスト
ブライダル業界に限った事ではないと思うが、プロフェッショナルと呼ばれる人の技術水準が著しく低下しているのは現実である。バブル崩壊から10年後の2000年ころであろうか、企業は、本格的に社員の育成において、スペシャリストからゼネラリストへの移行を推進していった。当時私はホテルで勤務していたが、部門の責任者としてお客様に感動して頂けるような対応をするのがプロフェッショナルの仕事であり、ホテリエとしてのあるべき姿だと思っていた。しかし、売上が下がり減収が見込まれる状況になると、企業はこぞって経費の削減を行い、ホテル全体でクロストレーニングという名目で、どこのセクションでも即実践で働ける人材の育成を始めたのである。すなわち、ゼネラリストの育成である。
ゼネラリストとは、総合職という聞こえの良い何でも出来る人を想像するが、人間の能力には限界というものがあり、いろんなジャンルの仕事をすべてプロレベルでこなせる人などそうそういないのである。私は、「何でも出来るという人がいたら、その人はプロとして何にも出来ない人」だと思っている。事務仕事や製造業などでは、人件費を効率的に使うことは可能で、さほど熟練を必要としない分野でのゼネラリスト像は想像の内だが、ホテルにおけるゼネラリスト化は、個人のプロ意識を低下させ、結果としてモチベーションまでも低下させてしまったのである。
特にホテルに来るお客様は、非日常を演出するからこそ、日常では味わえない料理や飲物、そしてサービスを期待して来られるわけで、そこに何でも出来ると言われる可もなく不可もない人が応対しても、お客様の感動を勝ち得ることは出来ない。結果、徐々にリピート客を減らし減収に追い込まれるのである。
プロフェッショナルになるプロセス
お客様を満足させるためには、非日常的なプロの領域でなければならない。プロとは素人にはない高い技術を有しており、そこには小さくとも感動があり、その感動こそがプロが作り出す満足なのである。その満足に誘われた顧客は感動しリピーターとなるのである。
バブル時代は、企業の売上が上昇し、その中で人件費は十分吸収できたし、ホテリエは、売上のことなど考えることは殆どなく、どうしたらお客様の満足を得られるサービスが出来るかを常に追求していた。私も駆け出しの頃のホテルはまさにそういう時代であり、技術を磨きお客様の満足を得られる方法を常に模索していた。休憩時間は、常に仕事の話をして先輩のサービス武勇伝に耳を傾けていた。本物を求めると売上が上がるという時代背景があったのかも知れない。
とにかく、駆け出しの頃は、一日も早くプロになりたく、またプロと呼ばれたくて毎日、家に帰ってまでも料理や飲物の勉強をしていた。私が当時勤務していたレストランは、今でもそうそうないような高単価なレストランで、主に企業接待中心のレストランであった。お客様は常にゲストとホストが来店し、ゲスト中心のサービスをするのが常であった。ほとんどすべてのお客様は予約の上来店するため、来店前には必ず顧客情報を調べ、ファーストドリンクなどを頭に入れ、ホスト側のお客様には注文を聞くことなくドリンクをサーブするのが上級のサービスであった。
プロとしての知識や技術を身に着けると、自ずとプロ意識が高まり、技術が高まるとその技術に対する妥協が出来なくなり、更に技術は高まって行くのである。