装置産業としての日本独自の婚礼,海外のウエディング文化に見習うべきこと
日本の言い伝え
日本の婚礼は、以前から「縁起」という言葉を中心に様々な言い伝えが伝承されてきた。「縁起を担ぐ」という言葉は、日本人にはかなり定着したが、縁起の悪い言葉は「忌(い)み言葉」とされ、特に婚礼にはタブーとされてきた。結婚は、男女が結ばれ一つになるという本質に対して、この本質に否定的な言葉を「忌み言葉」と言っている。例えば、結婚は「ご縁」であり、このご縁に否定的な言葉、例えば、「割れる」「壊れる」「破れる」「終わる」などが忌み言葉となる。また、披露宴が終了することを「終わる」とは決して言わず「お開き」という。以前は、その漢字も「お披楽喜」と書き、披露宴が楽しく喜ばしいものになることを願っているのである。
海外の言い伝え
一方、海外では、日本で言う「縁起」が「悪魔」という言葉で伝承されている。結婚したての新郎新婦は、悪魔に狙われやすいと考えているのだ。悪魔は、日本の幽霊以上に子供の頃からから身近で、かつ怖い存在だ。だからそこから悪魔よけの言い伝えも多く出来たようだ。
例えば、日本で言うバージンロード(海外では、“アイル”;aisle)というが、そこに敷くランナーも実は悪魔よけで、新婦入場の際に、新婦の前を穢(けが)れのない少女が花を撒(ま)きながら先導するのもバージンロードを清め悪魔を寄せ付けないためだ。また、旅立ちの儀式として、新郎新婦が車で新婚旅行に出かけるときの車の後ろに空き缶をたくさん引きずって、騒音をまき散らすのも悪魔よけといわれている。さらに、欧米、特にアメリカの結婚式には、ブライズメイズ(女性)やアッシャー(男性)が各5名位で新郎新婦の背景を彩るが、昔は、ブライズメイズの衣裳は新婦と同じもの、アッシャーの衣裳は新郎と同じものを着るのが一般的で、これは、悪魔が新郎新婦を狙おうとしたとき、どれが新郎新婦か分からないようにするためだとも言われている。
他にもたくさんの言い伝えがあるが、そうした根拠のあること、意味のあることが伝承され、しきたりや習慣になっているのである。
長続きする演出の考え方
そうした、表面化しないが本質的なストーリーがあっての演出だからこそ、人は素晴らしいと感じ、感動した結果伝承するのである。現在の日本では、新しいことが消費者の気をひく、イコールビジネスと考えることが多くなり、様々なおびただしい数の演出が提案されている。しかし、そうした演出は、すぐに市場から消えてしまう。一時的に購買意欲をあおっても、その効果は長続きしない。なぜなら、商品販売にはストーリー性が必須と考えるのは良いが、それが、根拠のない取ってつけたようなストーリーだからである。現場を知らない人が、ビジネス目的で考えた机上論では、人の心は打てない。以前と違い、目新しさだけでは、商品は売れないのである。
最近の新郎新婦は、以前と比べ新しい事だけに価値を見出すとは限らず、まだまだ少数なのかも知れないが、古民家や歴史的建造物など古いもの、歴史のあるもの、薀蓄のあるものに興味を持つ人が増えている。その傾向からも、演出はもっと原点に返った本質的な思考を導入したほうが受け入れられる可能性が高い。歴史は繰り返すと言うが、実は披露宴の演出もマイナーチェンジをしながら、10年から20年のレンジで繰り返されている。究極のところ本物により近いものが長続きするということだと思う。